クライミングパーク神怡舘(しんにかん)
中国・山西省との友好の証として建てられた本物の中国寺院。その中で登る、唯一無二のボルダリング。
- 埼玉県・秩父郡小鹿野町
- (最寄駅なし・車が基本)
- 関越道・花園ICから約45分。車がなくても西武秩父駅からバス約40分で行ける(本数は要確認)。
- 初回3,200円(入会金1,000円+利用料1,800円+シューズ300円+チョーク100円)
こんな人におすすめ
「珍しい場所で登ってみたい」人・運動後に温泉に浸かりたい人・秘境ドライブしたい人・子連れでも楽しみたい人
思い立って気軽に寄りたい人には遠い(都心から片道2〜3時間)。仕事帰りの1軒なら街なかのジムが向く。半日〜1日の「目的地」として行くと一番楽しめる。
埼玉県の秩父、小鹿野町(おがのまち)。関越道の花園ICから渓谷沿いの道を45分ほど走ると、のどかな集落の先に、突然、朱色の屋根の中国寺院が現れる。
「ボルダリングをしに来たはずなんだけど……」と、一瞬、自分の目的を見失う。でも安心してほしい。この荘厳な建物の中に、ちゃんとボルダリングジムがある。
石像が並ぶ駐車場
朱色と緑の装飾、反り返った屋根、そして敷地に何体も立ち並ぶ本格的な石像。とにかく大きい。車を降りた瞬間から「うわ、本当にあった」と声が出る。
撮るなら、屋根と背後の秩父の山々をいっしょに収めた建物全景がいい。山あいに中国寺院がそびえる一枚は、それだけで「どこ、ここ?」と聞かれる。
外観を見上げていると、ボルダリングというより「山の寺へ修行しに来た」ような、ちょっと厳かな気分になってくる。この非日常感こそ、神怡舘の一番の入口だ。
神怡舘の前世
この建物、テーマパークの作り物ではない。
もともとは「埼玉県山西省友好記念館」。埼玉県と中国山西省の友好提携10周年を記念して、1992年に建てられた本物の唐代寺院様式の建築だ。2018年に記念館としては閉館し、2020年からボルダリングジム「クライミングパーク神怡舘」として生まれ変わった。
駐車場で圧倒されるのは、当然だった。映えを狙った“風”の建物ではなく、県と省の友好の証として本気で建てられた本物なのだから。
「神怡舘」の「神怡」という名は、北宋の范仲淹(はんちゅうえん)『岳陽楼記』の一節に由来し、「心がのびやかに開き、おだやかになる」といった意味だという。
で、肝心のボルダリングは?
正直、登りにはあまり期待していなかった。ここまで建物が規格外だと、中身は観光施設のおまけくらいに思えてくる。
ところが、中はしっかりしたボルダリング施設だ。広々とした空間に、やさしい課題から歯ごたえのある課題まで幅広く並ぶ。
そして、とにかく空いていて気楽。
都心の人気ジムのような混雑がないので、人目を気にせず自分のペースで登れる。1回で登れなくても、同じ課題を何度トライしても、誰も気にしない。初めての人が一番こわい「自分だけ浮かないかな」が、ここではほとんど起きない。
スタッフの方も親切で、「どの課題から始めればいいですか?」と気軽に聞ける雰囲気。最初の一手さえ教えてもらえれば、あとは迷わない。
休憩スペースも広い。登っては休み、仲間とのんびり喋り、また登る。“登っていない時間”まで心地いい。「心がのびやかに開き、おだやかになる」という名前のとおりの時間が流れている。
秩父ドライブの組み立て方
神怡舘は、思い立って気軽に寄る街なかのジムではない。だからこそ、1日まるごとの「目的地」として組み立てると、一番輝く。
道中の渓谷や川沿いの景色、のどかな集落を抜けていく時間も、もう旅の一部。
登ったあとは、小鹿野名物の「わらじカツ丼」。私が寄ったのは「元六(げんろく)」で、わらじカツ丼にそばがついたセットが1,370円(税抜)。ボルダリングで使い切った体に、甘辛いカツがじんわりキマる。
そして温泉。ジムのすぐ隣には「両神荘(りょうかみそう)」という温泉旅館があり、日帰り入浴もできるらしい。いっそ泊まりがけで“クライミング合宿”にしてしまうのも、ここなら面白い。
アクセス(車がなくても行ける)
基本は車。関越道・花園ICから約45分の山道ドライブだ。
ただ、「車がないから無理」と諦めなくていい。西武秩父線の西武秩父駅から、バスで約40分でも行ける(時刻は事前に確認を)。
神怡舘という一日
山西省記念館だった本物の中国建築で登り、渓谷を眺め、わらじカツ丼を頬張り、温泉でしめる。
この全部をひっくるめて一日になるのが、神怡舘だ。ボルダリングを「ジムに行く」から「秩父へ小旅行する」に変えてくれる、唯一無二の場所だと思う。
🧗 ここから先は経験者向け(専門用語あり・初心者は読み飛ばしてOK)
この土地は、クライミングととても縁が深い。世界的プロクライマーの平山ユージさんが小鹿野クライミング協会の会長を務め、小鹿野町の観光大使でもある。二子山の岩場の再生や開拓を含め、町ぐるみで「クライミングの聖地」を目指しているエリアだ。
その縁で、神怡舘の課題は平山ユージさん率いる「Base Camp」の有名セッター陣が手がけている。スタッフにも小鹿野クライミング協会の方々がいて、課題のことも、二子山など近くの岩場のことも、聞けば面白い話がどんどん出てくる。
グレード感は、Base Camp とほぼ同等。セットしているのが同じセッター陣なので当然といえば当然だが、テープの色(グレード表記)も Base Camp と同じ。普段 Base Camp に通っている人なら、初見でも自分が取り付くラインの目安がすぐ分かる。
課題のタイプは、ひと通り網羅されている。ガチッとした保持系から、大胆なコーディネーション、飛び系まで幅広く、「このジムはこの傾向ばかり」という偏りがない。一手一手がよく練られている。
トレーニング設備も十分。キャンパシングボードがしっかり整備されていて、登り込みだけでなく、追い込みたい日でも困らない。
正直、家の近くにあったらホームジムにしたい。そう思える登りの質が、ちゃんとある。秘境の映えスポットでありながら、登りも本物。それが神怡舘の底力だと思う。